フィールドサイン – その①

 森や林などを散策すると,野生動物が野外に残した足跡や糞塊,採食後の食痕などを目にすることがあります.動物が残したこのような痕跡をフィールドサインとよびます.木の幹につけられたツキノワグマの爪痕,灌木につけられたニホンカモシカの“角こすり痕”などは典型的なフィールドサインで,そのサインを残した動物がそこで活動し生活している証となります.フィールドサインの形状からそれを残した動物の種類を知ることもあります.

ブナの樹幹に刻まれたツキノワグマの爪跡痕

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2010年3月13日 ツキノワグマの爪痕 観察園尾根沿いにて.

 クマの爪痕はサクラやホウノキ,ブナ,モミなど大木になる木ではあらゆる樹種で記録されていますが,白神山地ではブナの樹幹に残された爪痕が特に多いようです.これは,白神山地は世界最大の原生ブナ林ということで世界遺産に指定されているだけあり,広大なブナ林があり,しかもブナの実はクマの大好物であること,ブナは木肌が白っぽくなめらかなので,爪痕が人の眼にとまりやすいということによるものであろう.

ニホンザルによるホウノキの実の食痕

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2010年10月19日 ニホンザル 広泰寺裏にて.

写真左 広泰寺そばのホウノキの樹上でその実を食べるニホンザル.

写真右 ホウノキの下に落ちてきた食べ残しの実.このような食べ残しもフィールドサインの1つです.

ニホンザルによるコシアブラの樹皮食痕

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写真左 コシアブラの樹皮を食べるニホンザル.

 2012年1月18日 白神自然観察園を通る広泰寺参道付近でニホンザルの小さな群れが樹上で何かを食べていました.どうやらコシアブラの樹皮を食べていたようです.ニホンザルは冬になると食べ物が乏しくなり,コシアブラやヤマグワなどの樹の皮を食べて飢えをしのぎます.枝のところどころに見える白い部分がこの冬に樹皮をまるまるかじり取られたところ(食痕)で,オレンジっぽいところは昨年のものでしょう.

写真右 コシアブラの樹に残されたニホンザルによる樹皮食痕.

 2010年3月28日  写真左より2年も前の写真ですが,これもコシアブラです.ニホンザルはコシアブラが大好きなようで,冬の白神ではニホンザルが残したこのような生活痕(フィールドサイン)をしばしば目にします.何やら痛々しいですね.

ニホンザルはモリアオガエルの卵塊(泡巣)も食べる!

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写真左 2011年6月16日 モリアオガエルの卵塊(泡巣)を食べるニホンザル.

写真右 2010年5月23日 ニホンザルに食い荒らされ(?),落下したモリアオガエルの卵塊.

 モリアオガエルの成体の天敵はヘビやイタチ・アナグマ・タヌキなどである。これらの天敵から運よく逃れたモリアオガエルは春たけなわの頃,池に張りだしている木の枝先に卵塊を産み付けます.ところが白神のニホンザルはこの卵塊が大好きなようで,モリアオガエルにとってニホンザルは卵塊を泡ごと飲み込まれてしまう恐ろしい天敵なのです.

イタチ・テンないしはタヌキによるマルタニシ食痕

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2010年8月22日  広泰寺池のほとりで見つけたマルタニシの残骸(写真左).

 写真の右端に池のはじっこが見えますが,浅場になっているので,イタチやテンなども容易に獲物をくわえ上げ,岸辺でご馳走にありついたのでしょう.写真右は食痕の部分のズームアップです.

ニホンザルのヤマグワ食痕

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2010年4月17日 二ホンザルによって食い荒らされたヤマグワ 白神自然観察園にて.

 右上隅に見えるのは「不識の塔」.

ノウサギの噛切り痕

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2010年3月13日 クロモジの幼木の枝に残されたノウサギの噛切り痕 白神自然観察園にて.

 ノウサギは冬になると幼木や若木の皮や枝先を噛み切って食べます.小枝を噛み切るときは斜め横から噛みつきますが,上下の門歯で噛みきるため,ほぼ45度の噛み跡は鋭利な刃物で切断されたような切り口となります.二ホンカモシカの食痕はきれいな断面とはならず,食いちぎったような痕が残るのでノウサギのものとは容易に区別がつくと,地元の古老から聞きました.

ニホンカモシカの角擦(つのこす)り痕

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2010年8月27日 白神自然観察園にて.

 観察園を歩いていると,写真のような細い木が何かによって削ぎ取られているような痕跡をよく目にします.これはニホンカモシカが角でこすったもので,そこに眼窩腺(目の下にある分泌物をだすところ)を擦りつけて匂いづけ(マーキング)するのだそうです.

二ホンリスや二ホンモモンガ・ムササビなどの巣材に使われるスギ樹皮

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2010年8月22日 巣材用に樹皮を

 はぎ取られたスギの木 白神自然観察園にて.このようにはぎ取られた木の上に,はぎ取り主の巣があることが多い.

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2010年6月6日 大川沿いのスギ林にて.

 写真左 はぎ取られ根元に落ちたスギの樹皮.二ホンリス(以下,リス)や二ホンモモンガ(以下モモンガ)ムササビなどはこれらをまとめて口にくわえ,樹上の洞(うろ)などに運び入れ巣を作ります.

 写真右 幹と太い枝の基部のスペースを利用した樹枝上巣の場合は,強い風で巣材の一部が吹き飛ばされて落ちてしまうこともあります.

リスないしモモンガ・ムササビなどの樹枝上巣

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2010年9月15日 大沢林道沿いの杉林の中でリスないしモモンガ・ムササビの巣とわれる樹枝上巣を

 みつけました.スギの幹からつき出ている枝にスギの枯れ葉を重ね置き,その上に引き裂いたスギの樹皮を敷いているようです.写真右は写真左の一部拡大.

樹枝上巣は強風で壊れ部分的に落下することも多い

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写真左 2010年3月9日  写真右 2010年4月7日

 何れも春の嵐などで強風に吹きとばされて落ちたリス(ないしはモモンガ・ムササビ)のスギ樹皮巣材.

ツキノワグマのクマ棚と糞

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2011年10月29日 この日,弘前市松木平の山でクマ(ツキノワグマ)を見たという情報が入

 り早速出かけました.松木平の稲刈沢の奥にある土筆森の近くまで行くと,クリ林があり,そのあたり一面に握りこぶしくらいの大きさのクマの糞がたくさんころがっていました.樹の上の方を見ると,何やら黒っぽい塊が見えます.これが世に言う“クマ棚”です.ちょうどクリの実が食べごろで,クマはクリの木に登り枝分かれのところに腰掛け,細い枝を引き寄せてはへし折って実を食べ,残った枝を次々と尻の下に敷きつめ,クマ棚をつくるのです.この日のクマ棚はまるで樹上に作られた座布団のようでした.

 クマはこの時季,冬眠に備えてブナの実やドングリ,クルミ・クリなどたくさんの堅果類を食べます.その糞はすりつぶしたように滑らかに見える(写真左)ことが多いようですが,時には未消化のクリの皮がたくさん混じっている糞も見つかります(写真右).お腹が空きすぎて,あまり噛まずに急いで飲み込んでしまったのかもしれません.

獣たちのフィールドサイン・糞

ニホンザル

2011年8月19日 白神岳山頂尾根登山道に残されたニホンザルの糞.

 弘前大学農学生命科学部の佐々木長市教授が取り組んでいる白神岳山頂直下の湧き水の水質調査にお伴させていただいた時に山頂付近で撮った1枚です.ニホンザルは夏の時季には草木の葉や芽・茎・花・果実などをたべます.白神岳山頂の尾根一帯はササやススキの原野で,その日はササの若葉などを多く食べているようで,糞は緑っぽくなっていました.タケノコも大好物のようで,初夏のころにはもっと明るい若草色になります.

2010年3月9日 残雪上に残されたニホンザルの糞 白神自然観察園にて.

 秋にはドングリやブナの実など食べ物は多いが,冬季には餌となるものが少なく,樹皮を食べて凌ぎます.樹皮を食べると繊維質が多くなり,褐色の固い糞となります.

2010年4月15日 ニホンザルの糞 白神自然観察園にて.

 繊維質の多い樹皮を多く食べると,上の写真のように

数珠玉ないしは串団子のようにつながった糞になること

が多くなります.

イイズナ

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2012年1月18日 イイズナないしはオコジョの糞 白神自然観察園にて.

 観察園中腹の東屋のそばの雪原で太さ4~5mmくらいのちんこい糞を見つけました.その大きさや太さから,どうやらこれはイイズナかオコジョの糞のようです.北海道産イイズナの糞の写真がインターネットに載っており,そっくりでしたので,イイズナの糞の可能性が高いでしょう.

二ホンテン

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2011年10月20日 川原の岩の上に残された二ホンテンの高糞 大川渓流にて.

 二ホンテン(以下テン)は渓流の川原の大きな岩の上に糞をすることが多いといわれており,一般に“テンの高糞”と称するようです.確かに渓流をあるいて遡上するとここかしこにテンの高糞を見つけることが出来ます.テンは雑食で,秋の時季にはいろいろな果実の種が混じっていることが多いです.参考までにその例をいくつか紹介しましょう.

テンの“高糞”4景

写真左上 2009年10月6日 大川の川原にて. 写真右上 2009年10月22日 湯ノ沢川の川原にて.

写真左下 2010年6月6日 大川の川原にて. 写真右下 2009年10月22日 湯ノ沢川の川原にて.

タヌキの“溜糞(タメフン)”2景

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写真左: 2010年4月17日 タヌキの溜糞 白神自然観察園の杉林にて.

写真右: 2010年5月5日 タヌキの溜糞 大川沿いの杉林にて.

 タヌキにはカモシカなどと同じように同じ場所で糞をするという習性があります.どちらの場合も何日か間を空けた2~3回分の溜糞が認められ,比較的新しい溜糞場と思われます.時には何十回分もの溜め糞が見つかることもあります.

ノウサギの糞2景

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写真左 2009年12月13日 ノウサギの糞 白神自然観察園にて.

写真右 2010年9月7日 ノウサギの糞 砂子瀬遺跡にて.

 ノウサギの糞もわかりやすいフィールドサインの1つです.糞の大きさは直径1cmほどで匂いはほとんどありません.

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2010年5月5日 二ホンジカの糞 大川林道にて.

 この日昼下がり,大川林道の杉林でまだ新しいと思われる明るい色の糞をみつけました.ん・・?これはシカの糞?カモシカの糞?二ホンジカはシカ科,ニホンカモシカはウシ科で系統的には大きく異なりますが,食性が似ているためか糞は極めて似ていて,ちょい見では区別が難しいところがあります.ただ,両者の排便の仕方には決定的な違いがあり,ニホンカモシカは同じところに何回も糞を重ねる溜糞をし,二ホンジカは溜糞をしないので,排便習性から区別がつきます.一般に500個以上の糞粒であれば,ニホンカモシカで,それ以下の場合は二ホンジカとみなしているようですので,この基準に従えば,上の写真の糞の主は二ホンジカの糞ということになります(ただし,二ホンカモシカの溜糞の最初の段階という判断もありそうです).最近は,糞のDNA分析から確実に判定できるようになったと聞きました.