白神で出あった両生類 ~ カエルたち
大川渓流の淀みを平泳ぎで渡るアズマヒキガエル
2011年7月23日 アズマヒキガエル 大川渓流にて.
白神山地核心部の青鹿岳のあたりに端を発する大川の渓流.その源流部の手前4~5kmあたりに大川渓流の最大の難所“タカヘグリ”があります(Homeのページ参照).写真は渓流の両岸に切り立つ黒壁のタカヘグリを目指して渓流遡行しているときに出会ったアズマヒキガエルです.大きな岩のかげで波のない透きとおるような水面を気持ちよさそうに平泳ぎで泳いでいる姿は何とも微笑ましい限りでした.渓流を泳いでいたので、ナガレヒキガエル発見!かと胸が高鳴りましたが,立派な鼓膜がついていて高地型のアズマヒキガエルでした.産卵期でもないのに,ここ大川渓流では頻繁にアズマヒキガエルを見かけました.
アズマヒキガエル2景
写真左: 2011年5月19日 アズマヒキガエルの成体 大川渓流沿いにて.
写真右: 2011年7月23日 アズマヒキガエルの成体 大川上流タカヘグリ近辺にて.
上の3枚の写真からわかるように,アズマヒキガエルには個体によって褐色、黄褐色、赤褐色などさまざまな体色変異があります.白神のものは高地性でヤマヒキガエルとも呼ばれているようです.
アズマヒキガエルの産卵とオタマジャクシ
写真左: 2011年5月19日 アズマヒキガエルとその卵塊 大川渓流沿いにて.
ヒキガエルの卵塊は2-5mほどの紐状ジェリーで,その中に径2-3mmの黒い卵が何千個か入っていると 言います.
写真右: 2011年6月5日 写真左の卵塊から孵化して間もないオタマジャクシ 大川渓流沿いにて.
この写真のカエルと卵塊の動画を撮ってありますので,興味のある方は【白神散策Movieでご案内】を ご覧ください.
ヤマアカガエル
2010年4月15日 抱接中のヤマアカガエルとその卵塊広泰寺池にて.
写真中央のあたりと右下隅に抱接中のカップルがいます.背中に乗って抱きついている小さい方がオスで,下の大きい方がメスです.中央のカップルのメスはお腹がほとんどぺちゃんこですので,産卵はほぼ終えたようです.右下隅のカップルは産卵中のようで,産卵直後のまだ水をあまり吸収していない黒っぽい卵塊が見えます.時間とともに水を吸収しジェリー層が透明になってきます.
ヤマアカガエルの卵発生
写真左: 2009年4月29日 原腸胚~神経胚あたりまで発生が進んでいるヤマアカガエルの卵塊 広泰寺
池にて.
写真右: 2011年5月18日 尾芽胚期のヤマアカガエル 広泰寺池にて.
このステージになると卵膜の中で体をくねらせたり尾をふって動いたりするのがわかります.参考までに部分拡大の写真を下にあげておきます.
卵膜を破って自由生活へ ~ オタマジャクシ
2010年5月18日 孵化したヤマアカガエルのオタマ
ジャクシ 広泰寺池にて.
20011年6月15日 ヤマアカガエルのオタマジャクシ
広泰寺池にて.
ヤマアカガエルの発生段階4景
左上より順に時計回りで(何れも広泰寺池にて)
2011年7月2日 ヤマアカガエルのオタマジャクシ.
2009年8月1日 オタマジャクシの時期を終えつつあるヤマアカガエルの仔蛙.
2009年4月29日 そろそろ陸上生活へ移行するヤマアカガエル.
2010年6月13日 陸上生活のヤマアカガエルの成体.
2011年7月23日 ヤマアカガエルの成体 大川渓流・タカヘグリにて.
ヤマアカガエルは背面両側にすじ状の隆起線(背側線)があり,鼓膜の手前あたりで外側にカーブするのが特徴です(ニホンアカガエルはカーブすることなく真っ直ぐ伸びます).写真ではカーブしていないように見えますが,カメラアングルを変えて同じ個体を撮ったもう一枚の写真(写真下;色調が変わってしまいましたが)でははっきりカーブしているのが見えるので,ヤマアカガエルでよいでしょう.
2011年7月23日 ヤマアカガエル 大川渓流・タカヘグリにて.
上の写真と同じ個体.背側線が鼓膜の手前あたりで外側に向かってカーブしているのがよく見えます.
二ホンアマガエル
2009年8月19日 二ホンアマガエルの仔蛙 秋田県八峰町にて.
鼻孔から目-鼓膜-前肢つけねあたりまでつらなる黒いラインが本種同定の指標の1つです.
カジカガエル ~ 渓流性のカエル
2010年6月6日 水底で抱接中のカジカガエル 大川渓流の川原にて.
風薫る初夏,大川の川原を歩くと,うるさいほどのエゾハルゼミの鳴き声に交じってあちらこちらでカジカガエルの鈴の音のような鳴き声がきこえ,水たまりをのぞくとカジカガエルの卵塊や背中に雄をおんぶした抱接中のカップルが見つかります.抱接中のカップルは保護色のようにまわりの砂礫に溶け込んだような色合いになっているので,見逃しやすいのですが,注意深く目を凝らすと見えてきます.写真のカップルのこの後の動態を撮った動画もありますので,興味のある方は【白神散策Movieでご案内】をご覧ください.
写真上のカップルの近くでたまたま水面から半分頭を出している小岩を動かしてみたら、神経胚から尾芽胚あたりまで発生が進んでいるカジカガエルの卵塊が見えました(写真左)。ラッキー!! わかりやすいように中央部分を拡大してみると(写真右),真ん中あたりに神経管ができつつある神経胚,右下あたりに尾が形成されてくるいわゆる尾芽胚がよくみえます.この後,半分めくれ上がった卵塊をもとの配置にもどし,取り外した小岩を元どおりにかぶせておきました.みんな元気に孵化してね!
白神で出あった両生類 ~ カエルたち
大川渓流の淀みを平泳ぎで渡るアズマヒキガエル
2011年7月23日 アズマヒキガエル 大川渓流にて.
白神山地核心部の青鹿岳のあたりに端を発する大川の渓流.その源流部の手前4~5kmあたりに大川渓流の最大の難所“タカヘグリ”があります(Homeのページ参照).写真は渓流の両岸に切り立つ黒壁のタカヘグリを目指して渓流遡行しているときに出会ったアズマヒキガエルです.大きな岩のかげで波のない透きとおるような水面を気持ちよさそうに平泳ぎで泳いでいる姿は何とも微笑ましい限りでした.渓流を泳いでいたので、ナガレヒキガエル発見!かと胸が高鳴りましたが,立派な鼓膜がついていて高地型のアズマヒキガエルでした.産卵期でもないのに,ここ大川渓流では頻繁にアズマヒキガエルを見かけました.
アズマヒキガエル2景
写真左: 2011年5月19日 アズマヒキガエルの成体 大川渓流沿いにて.
写真右: 2011年7月23日 アズマヒキガエルの成体 大川上流タカヘグリ近辺にて.
上の3枚の写真からわかるように,アズマヒキガエルには個体によって褐色、黄褐色、赤褐色などさまざまな体色変異があります.白神のものは高地性でヤマヒキガエルとも呼ばれているようです.
アズマヒキガエルの産卵とオタマジャクシ
写真左: 2011年5月19日 アズマヒキガエルとその卵塊 大川渓流沿いにて.
ヒキガエルの卵塊は2-5mほどの紐状ジェリーで,その中に径2-3mmの黒い卵が何千個か入っていると 言います.
写真右: 2011年6月5日 写真左の卵塊から孵化して間もないオタマジャクシ 大川渓流沿いにて.
この写真のカエルと卵塊の動画を撮ってありますので,興味のある方は【白神散策Movieでご案内】を ご覧ください.
ヤマアカガエル
2010年4月15日 抱接中のヤマアカガエルとその卵塊広泰寺池にて.
写真中央のあたりと右下隅に抱接中のカップルがいます.背中に乗って抱きついている小さい方がオスで,下の大きい方がメスです.中央のカップルのメスはお腹がほとんどぺちゃんこですので,産卵はほぼ終えたようです.右下隅のカップルは産卵中のようで,産卵直後のまだ水をあまり吸収していない黒っぽい卵塊が見えます.時間とともに水を吸収しジェリー層が透明になってきます.
ヤマアカガエルの卵発生
写真左: 2009年4月29日 原腸胚~神経胚あたりまで発生が進んでいるヤマアカガエルの卵塊 広泰寺
池にて.
写真右: 2011年5月18日 尾芽胚期のヤマアカガエル 広泰寺池にて.
このステージになると卵膜の中で体をくねらせたり尾をふって動いたりするのがわかります.参考までに部分拡大の写真を下にあげておきます.
卵膜を破って自由生活へ ~ オタマジャクシ
2010年5月18日 孵化したヤマアカガエルのオタマ
ジャクシ 広泰寺池にて.
20011年6月15日 ヤマアカガエルのオタマジャクシ
広泰寺池にて.
ヤマアカガエルの発生段階4景
左上より順に時計回りで(何れも広泰寺池にて)
2011年7月2日 ヤマアカガエルのオタマジャクシ.
2009年8月1日 オタマジャクシの時期を終えつつあるヤマアカガエルの仔蛙.
2009年4月29日 そろそろ陸上生活へ移行するヤマアカガエル.
2010年6月13日 陸上生活のヤマアカガエルの成体.
2011年7月23日 ヤマアカガエルの成体 大川渓流・タカヘグリにて.
ヤマアカガエルは背面両側にすじ状の隆起線(背側線)があり,鼓膜の手前あたりで外側にカーブするのが特徴です(ニホンアカガエルはカーブすることなく真っ直ぐ伸びます).写真ではカーブしていないように見えますが,カメラアングルを変えて同じ個体を撮ったもう一枚の写真(写真下;色調が変わってしまいましたが)でははっきりカーブしているのが見えるので,ヤマアカガエルでよいでしょう.
2011年7月23日 ヤマアカガエル 大川渓流・タカヘグリにて.
上の写真と同じ個体.背側線が鼓膜の手前あたりで外側に向かってカーブしているのがよく見えます.
二ホンアマガエル
2009年8月19日 二ホンアマガエルの仔蛙 秋田県八峰町にて.
鼻孔から目-鼓膜-前肢つけねあたりまでつらなる黒いラインが本種同定の指標の1つです.
モリアオガエル
写真左: 2009年6月20日 モリアオガエル 広泰寺参道脇の小沼にて.
写真右: 2011年6月16日 モリアオガエルの仔蛙 広泰寺池にて.
二ホンアマガエルに見られるような黒いラインは見当たりません.
2009年6月12日 抱接中のモリアオガエル 広泰寺池にて.
モリアオガエルは日本では唯一の樹上産卵ガエルで,指先に吸盤がついており自在に木に登ります.白神山地では雪が消えて間もない5月下旬になるとモリアオガエルたちが池や沼の周りに集まってきます.観察園近くの広泰寺池にもやってきて次々と木に登り,水面に張り出した枝先に白い泡の卵塊を産みつけます.産卵を控えた大きなお腹のメスの背中に小さなオスが抱きつきよじ登って行く光景は,この時季里山を散策する人たちにはお馴染みの光景でしょう.指先の吸盤がよく発達しているのがわかりますね.
2010年5月21日 樹上で抱接中のモリアオガエル(写真左)と水中で抱接中のモリアオガエル(写真右)
広泰寺参道脇の小沼にて.
5月下旬,小雨の日などはモリアオガエルたちの産卵活動が活発になります.
2009年6月7日 産卵たけなわのモリアオガエル 広泰寺池にて.
卵塊を産みつける樹種は決まっていないようで,ヤマモミジやスギ,コシアブラ,ヤマグワなど水面に覆いかぶさるような枝を選んでいるようです.産卵がはじまると1匹のメスにたくさんのオスがぶら下がって産卵された卵に精子をかけ両足でしきりにかき回して泡立て,白い泡巣の卵塊にします.左側の枝にもう一組の抱接カップルと産卵に合流しようとする雄ガエル2匹,右下にもう一組の産卵中のカエルもみえます.
2010年6月8日 ホオノキの枝先に産卵するモリアオガエル 広泰寺参道脇の小沼にて.
真ん中に見える大きな個体がメスで,今まさに産卵中で10匹前後のオスが群がって泡状の卵塊づくりに励んでいます.直径10~15cmほどの卵塊の中には黄白色の卵が数百個入っていて,泡状の卵塊の中で受精した卵はすぐ発生を始めます.この産卵シーンを動画に撮ってありますので,興味のある方は【白神散策Movieでご案内】をご覧ください.
2010年6月8日 モリアオガエルの産卵(赤外映像より) 広泰寺池にて.
この日夕刻6時ころ,広泰寺池のほとりのヤマモミジの枝先でモリアオガエルが産卵している場面に遭遇,タイミングよく持参していたハンディカムを三脚に固定し動画で撮影できました.この写真は1時間ほどして夕闇が迫り夜間撮影に切り替え撮影した動画からの1シーンです.赤外線による撮影のため,目が特異的に反射し独特の雰囲気を醸し出しています.日中と夜間の産卵シーンを連続で撮ってありますので,興味のある方は【白神散策Movieでご案内】をご覧ください.
広泰寺池
2010年5月21日 広泰寺と広泰寺池の自然環境.
このホームページでは広泰寺池の動物がしばしば登場しますので, 参考までにその池の写真を上げておきます. 奥に見えるのが広泰寺で, 池の水面に広泰寺が映えているのが見えます. 広泰寺は弘前大学白神自然観察園の北側に接する位置にあり, 広泰寺池の手前側が観察園になります.
2009年6月7日 モリアオガエルの産卵シーン2景 広泰寺池にて.
白い泡の卵塊を作る時,卵塊が落ちてしまわないよう近くの葉をとりこんで泡立てます.2~3日もすると卵塊表面が乾き,これによって卵塊がしっかり枝に固定されるのです.
2009年6月7日 産卵を終えて・・・ 広泰寺池にて.
ヤマグワの枝先に産みつけられた卵塊.産卵を終えると親蛙たちは卵塊に別れを告げます.しばらく池にとどまるものもいますが,ほとんどは森の中へと散らばってゆくようです.
2009年5月24日 ヤマモミジの小枝に産みつけられたモリアオガエルの卵塊.広泰寺池にて.
2009年5月24日 ヤマモミジの小枝に産みつけられたモリアオガエルの卵塊 広泰寺池にて.
やがて2~3週間もすれば小さなオタマジャクシ(幼生)たちが泡巣を溶かし下の池にぽたぽた落ちて泳ぎ出します.ところが多くの場合,池では彼らをひとのみしてしまうアカハライモリが待ち構えていているのです.この天敵から逃れることが出来たとしても,ヤゴやゲンゴロウなどの水棲昆虫たちがさらなる天敵として襲ってくるのです.“フィールドサイン”のニホンザルのところで紹介しましたが,モリアオガエルは樹上での卵塊の時はもちろん水中にいても地上に上がってからもまさに天敵だらけなのです.
モリアオガエル
写真左: 2009年6月20日 モリアオガエル 広泰寺参道脇の小沼にて.
写真右: 2011年6月16日 モリアオガエルの仔蛙 広泰寺池にて.
二ホンアマガエルに見られるような黒いラインは見当たりません.
2009年6月12日 抱接中のモリアオガエル 広泰寺池にて.
モリアオガエルは日本では唯一の樹上産卵ガエルで,指先に吸盤がついており自在に木に登ります.白神山地では雪が消えて間もない5月下旬になるとモリアオガエルたちが池や沼の周りに集まってきます.観察園近くの広泰寺池にもやってきて次々と木に登り,水面に張り出した枝先に白い泡の卵塊を産みつけます.産卵を控えた大きなお腹のメスの背中に小さなオスが抱きつきよじ登って行く光景は,この時季里山を散策する人たちにはお馴染みの光景でしょう.指先の吸盤がよく発達しているのがわかりますね.
2010年5月21日 樹上で抱接中のモリアオガエル(写真左)と水中で抱接中のモリアオガエル(写真右)
広泰寺参道脇の小沼にて.
5月下旬,小雨の日などはモリアオガエルたちの産卵活動が活発になります.
2009年6月7日 産卵たけなわのモリアオガエル 広泰寺池にて.
卵塊を産みつける樹種は決まっていないようで,ヤマモミジやスギ,コシアブラ,ヤマグワなど水面に覆いかぶさるような枝を選んでいるようです.産卵がはじまると1匹のメスにたくさんのオスがぶら下がって産卵された卵に精子をかけ両足でしきりにかき回して泡立て,白い泡巣の卵塊にします.左側の枝にもう一組の抱接カップルと産卵に合流しようとする雄ガエル2匹,右下にもう一組の産卵中のカエルもみえます.
2010年6月8日 ホオノキの枝先に産卵するモリアオガエル 広泰寺参道脇の小沼にて.
真ん中に見える大きな個体がメスで,今まさに産卵中で10匹前後のオスが群がって泡状の卵塊づくりに励んでいます.直径10~15cmほどの卵塊の中には黄白色の卵が数百個入っていて,泡状の卵塊の中で受精した卵はすぐ発生を始めます.この産卵シーンを動画に撮ってありますので,興味のある方は【白神散策Movieでご案内】をご覧ください.
2010年6月8日 モリアオガエルの産卵(赤外映像より) 広泰寺池にて.
この日夕刻6時ころ,広泰寺池のほとりのヤマモミジの枝先でモリアオガエルが産卵している場面に遭遇,タイミングよく持参していたハンディカムを三脚に固定し動画で撮影できました.この写真は1時間ほどして夕闇が迫り夜間撮影に切り替え撮影した動画からの1シーンです.赤外線による撮影のため,目が特異的に反射し独特の雰囲気を醸し出しています.日中と夜間の産卵シーンを連続で撮ってありますので,興味のある方は【白神散策Movieでご案内】をご覧ください.
広泰寺池
2010年5月21日 広泰寺と広泰寺池の自然環境.
このホームページでは広泰寺池の動物がしばしば登場しますので, 参考までにその池の写真を上げておきます. 奥に見えるのが広泰寺で, 池の水面に広泰寺が映えているのが見えます. 広泰寺は弘前大学白神自然観察園の北側に接する位置にあり, 広泰寺池の手前側が観察園になります.
2009年6月7日 モリアオガエルの産卵シーン2景 広泰寺池にて.
白い泡の卵塊を作る時,卵塊が落ちてしまわないよう近くの葉をとりこんで泡立てます.2~3日もすると卵塊表面が乾き,これによって卵塊がしっかり枝に固定されるのです.
2009年6月7日 産卵を終えて・・・ 広泰寺池にて.
ヤマグワの枝先に産みつけられた卵塊.産卵を終えると親蛙たちは卵塊に別れを告げます.しばらく池にとどまるものもいますが,ほとんどは森の中へと散らばってゆくようです.
2009年5月24日 ヤマモミジの小枝に産みつけられたモリアオガエルの卵塊.広泰寺池にて.
2009年5月24日 ヤマモミジの小枝に産みつけられたモリアオガエルの卵塊 広泰寺池にて.
やがて2~3週間もすれば小さなオタマジャクシ(幼生)たちが泡巣を溶かし下の池にぽたぽた落ちて泳ぎ出します.ところが多くの場合,池では彼らをひとのみしてしまうアカハライモリが待ち構えていているのです.この天敵から逃れることが出来たとしても,ヤゴやゲンゴロウなどの水棲昆虫たちがさらなる天敵として襲ってくるのです.“フィールドサイン”のニホンザルのところで紹介しましたが,モリアオガエルは樹上での卵塊の時はもちろん水中にいても地上に上がってからもまさに天敵だらけなのです.
カジカガエル ~ 渓流性のカエル
2010年6月6日 水底で抱接中のカジカガエル 大川渓流の川原にて.
風薫る初夏,大川の川原を歩くと,うるさいほどのエゾハルゼミの鳴き声に交じってあちらこちらでカジカガエルの鈴の音のような鳴き声がきこえ,水たまりをのぞくとカジカガエルの卵塊や背中に雄をおんぶした抱接中のカップルが見つかります.抱接中のカップルは保護色のようにまわりの砂礫に溶け込んだような色合いになっているので,見逃しやすいのですが,注意深く目を凝らすと見えてきます.写真のカップルのこの後の動態を撮った動画もありますので,興味のある方は【白神散策Movieでご案内】をご覧ください.
白神山地・大川源流部のタカヘグリ探訪
写真上のカップルの近くでたまたま水面から半分頭を出している小岩を動かしてみたら、神経胚から尾芽胚あたりまで発生が進んでいるカジカガエルの卵塊が見えました(写真左)。ラッキー!! わかりやすいように中央部分を拡大してみると(写真右),真ん中あたりに神経管ができつつある神経胚,右下あたりに尾が形成されてくるいわゆる尾芽胚がよくみえます.この後,半分めくれ上がった卵塊をもとの配置にもどし,取り外した小岩を元どおりにかぶせておきました.みんな元気に孵化してね!
フィールドサイン – その①
森や林などを散策すると,野生動物が野外に残した足跡や糞塊,採食後の食痕などを目にすることがあります.動物が残したこのような痕跡をフィールドサインとよびます.木の幹につけられたツキノワグマの爪痕,灌木につけられたニホンカモシカの“角こすり痕”などは典型的なフィールドサインで,そのサインを残した動物がそこで活動し生活している証となります.フィールドサインの形状からそれを残した動物の種類を知ることもあります.
ブナの樹幹に刻まれたツキノワグマの爪跡痕
2010年3月13日 ツキノワグマの爪痕 観察園尾根沿いにて.
クマの爪痕はサクラやホウノキ,ブナ,モミなど大木になる木ではあらゆる樹種で記録されていますが,白神山地ではブナの樹幹に残された爪痕が特に多いようです.これは,白神山地は世界最大の原生ブナ林ということで世界遺産に指定されているだけあり,広大なブナ林があり,しかもブナの実はクマの大好物であること,ブナは木肌が白っぽくなめらかなので,爪痕が人の眼にとまりやすいということによるものであろう.
ニホンザルによるホウノキの実の食痕
『白神どうぶつ讃歌 白神の森で
出あった動物たち』へ転載
2010年10月19日 ニホンザル 広泰寺裏にて.
写真左 ホウノキの樹上でその実を食べるニホンザル.
写真右 ホウノキの下に落ちてきた食べ残しの実.このような食べ残しもフィールドサインの1つです.
ニホンザルによるコシアブラの樹皮食痕
写真左 コシアブラの樹皮を食べるニホンザル.
2012年1月18日 白神自然観察園を通る広泰寺参道付近でニホンザルの小さな群れが樹上で何かを食べていました.どうやらコシアブラの樹皮を食べていたようです.ニホンザルは冬になると食べ物が乏しくなり,コシアブラやヤマグワなどの樹の皮を食べて飢えをしのぎます.枝のところどころに見える白い部分がこの冬に樹皮をまるまるかじり取られたところ(食痕)で,オレンジっぽいところは昨年のものでしょう.
写真右 コシアブラの樹に残されたニホンザルによる樹皮食痕.
2010年3月28日 写真左より2年も前の写真ですが,これもコシアブラです.ニホンザルはコシアブラが大好きなようで,冬の白神ではニホンザルが残したこのような生活痕(フィールドサイン)をしばしば目にします.何やら痛々しいですね.
『白神どうぶつ讃歌 白神の森で 出あった動物たち』へ転載
ニホンザルはモリアオガエルの卵塊(泡巣)も食べる!
写真左 2011年6月16日 モリアオガエルの卵塊(泡巣)を食べるニホンザル.
写真右 2010年5月23日 ニホンザルに食い荒らされ(?),落下したモリアオガエルの卵塊.
モリアオガエルの成体の天敵はヘビやイタチ・アナグマ・タヌキなどである。これらの天敵から運よく逃れたモリアオガエルは春たけなわの頃,池に張りだしている木の枝先に卵塊を産み付けます.ところが白神のニホンザルはこの卵塊が大好きなようで,モリアオガエルにとってニホンザルは卵塊を泡ごと飲み込まれてしまう恐ろしい天敵なのです.
イタチ・テンないしはタヌキによるマルタニシ食痕
『白神どうぶつ讃歌 白神の森で
出あった動物たち』へ転載
2010年8月22日 広泰寺池のほとりで見つけたマルタニシの残骸(写真左).
写真の右端に池のはじっこが見えますが,浅場になっているので,イタチやテンなども容易に獲物をくわえ上げ,岸辺でご馳走にありついたのでしょう.写真右は食痕の部分のズームアップです.
ニホンザルのヤマグワ食痕
2010年4月17日 二ホンザルによって食い荒らされたヤマグワ 白神自然観察園にて.
右上隅に見えるのは「不識の塔」.
ノウサギの噛切り痕
2010年3月13日 クロモジの幼木の枝に残されたノウサギの噛切り痕 白神自然観察園にて.
ノウサギは冬になると幼木や若木の皮や枝先を噛み切って食べます.小枝を噛み切るときは斜め横から噛みつきますが,上下の門歯で噛みきるため,ほぼ45度の噛み跡は鋭利な刃物で切断されたような切り口となります.二ホンカモシカの食痕はきれいな断面とはならず,食いちぎったような痕が残るのでノウサギのものとは容易に区別がつくと,地元の古老から聞きました.
ニホンカモシカの角擦(つのこす)り痕
『白神どうぶつ讃歌 白神の森で
出あった動物たち』へ転載
2010年8月27日 白神自然観察園にて.
観察園を歩いていると,写真のような細い木が何かによって削ぎ取られているような痕跡をよく目にします.これはニホンカモシカが角でこすったもので,そこに眼窩腺(目の下にある分泌物をだすところ)を擦りつけて匂いづけ(マーキング)するのだそうです.
© 2020 by Yoshitaka Obara PhD. Proudly created with Wix.com
二ホンリスや二ホンモモンガ・ムササビなどの巣材に使われるスギ樹皮
『白神どうぶつ讃歌 白神の森で
出あった動物たち』へ転載
2010年8月22日 巣材用に樹皮を
はぎ取られたスギの木 白神自然観察園にて.このようにはぎ取られた木の上に,はぎ取り主の巣があることが多い.
2010年6月6日 大川沿いのスギ林にて.
写真左 はぎ取られ根元に落ちたスギの樹皮.二ホンリス(以下,リス)や二ホンモモンガ(以下モモンガ)ムササビなどはこれらをまとめて口にくわえ,樹上の洞(うろ)などに運び入れ巣を作ります.
写真右 幹と太い枝の基部のスペースを利用した樹枝上巣の場合は,強い風で巣材の一部が吹き飛ばされて落ちてしまうこともあります.
リスないしモモンガ・ムササビなどの樹枝上巣
2010年9月15日 大沢林道沿いの杉林の中でリスないしモモンガ・ムササビの巣と思われる樹枝上巣を
見つけました.スギの幹からつき出ている枝にスギの枯れ葉を重ね置き,その上に引き裂いたスギの樹皮を敷いているようです.写真右は写真左の一部拡大.
樹枝上巣は強風で壊れ部分的に落下することも多い
写真左 2010年3月9日 写真右 2010年4月7日
何れも春の嵐などで強風に吹きとばされて落ちたリス(ないしはモモンガ・ムササビ)のスギ樹皮巣材.
ツキノワグマのクマ棚と糞
2011年10月29日 この日,弘前市松木平の山でクマ(ツキノワグマ)を見たという情報が入
り早速出かけました.松木平の稲刈沢の奥にある土筆森の近くまで行くと,クリ林があり,そのあたり一面に握りこぶしくらいの大きさのクマの糞がたくさんころがっていました.樹の上の方を見ると,何やら黒っぽい塊が見えます.これが世に言う“クマ棚”です.ちょうどクリの実が食べごろで,クマはクリの木に登り枝分かれのところに腰掛け,細い枝を引き寄せてはへし折って実を食べ,残った枝を次々と尻の下に敷きつめ,クマ棚をつくるのです.この日のクマ棚はまるで樹上に作られた座布団のようでした.
クマはこの時季,冬眠に備えてブナの実やドングリ,クルミ・クリなどたくさんの堅果類を食べます.その糞はすりつぶしたように滑らかに見える(写真左)ことが多いようですが,時には未消化のクリの皮がたくさん混じっている糞も見つかります(写真右).お腹が空きすぎて,あまり噛まずに急いで飲み込んでしまったのかもしれません.
獣たちのフィールドサイン・糞
ニホンザル
『白神どうぶつ讃歌 白神の森で
出あった動物たち』へ転載
2011年8月19日 白神岳山頂尾根登山道に残されたニホンザルの糞.
弘前大学農学生命科学部の佐々木長市教授が取り組んでいる白神岳山頂直下の湧き水の水質調査にお伴させていただいた時に山頂付近で撮った1枚です.ニホンザルは夏の時季には草木の葉や芽・茎・花・果実などをたべます.白神岳山頂の尾根一帯はササやススキの原野で,その日はササの若葉などを多く食べているようで,糞は緑っぽくなっていました.タケノコも大好物のようで,初夏のころにはもっと明るい若草色になります.
2010年3月9日 残雪上に残されたニホンザルの糞 白神自然観察園にて.
秋にはドングリやブナの実など食べ物は多いが,冬季には餌となるものが少なく,樹皮を食べて凌ぎます.樹皮を食べると繊維質が多くなり,褐色の固い糞となります.
2010年4月15日 ニホンザルの糞 白神自然観察園にて.
『白神どうぶつ讃歌 白神の森で 繊維質の多い樹皮を多く食べると,上の写真のように
出あった動物たち』へ転載 数珠玉ないしは串団子のようにつながった糞になること
が多くなります.
イイズナ
2012年1月18日 イイズナないしはオコジョの糞 白神自然観察園にて.
観察園中腹の東屋のそばの雪原で太さ4~5mmくらいのちんこい糞を見つけました.その大きさや太さから,どうやらこれはイイズナかオコジョの糞のようです.北海道産イイズナの糞の写真がインターネットに載っており,そっくりでしたので,イイズナの糞の可能性が高いでしょう.
二ホンテン
『白神どうぶつ讃歌 白神の森で
出あった動物たち』へ転載
2011年10月20日 川原の岩の上に残された二ホンテンの高糞 大川渓流にて.
二ホンテン(以下テン)は渓流の川原の大きな岩の上に糞をすることが多いといわれており,一般に“テンの高糞”と称するようです.確かに渓流をあるいて遡上するとここかしこにテンの高糞を見つけることが出来ます.テンは雑食で,秋の時季にはいろいろな果実の種が混じっていることが多いです.参考までにその例をいくつか紹介しましょう.
テンの“高糞”4景
写真左上 2009年10月6日 大川の川原にて. 写真右上 2009年10月22日 湯ノ沢川の川原にて.
写真左下 2010年6月6日 大川の川原にて. 写真右下 2009年10月22日 湯ノ沢川の川原にて.
タヌキの“溜糞(タメフン)”2景
『白神どうぶつ讃歌 白神の森で
出あった動物たち』へ転載
写真左: 2010年4月17日 タヌキの溜糞 白神自然観察園の杉林にて.
写真右: 2010年5月5日 タヌキの溜糞 大川沿いの杉林にて.
タヌキにはカモシカなどと同じように同じ場所で糞をするという習性があります.どちらの場合も何日か間を空けた2~3回分の溜糞が認められ,比較的新しい溜糞場と思われます.時には何十回分もの溜め糞が見つかることもあります.
好天が続いたりすると,糞も乾燥してくるようで,黒っぽい糞からだんだん白っぽくなり,脱糞の順序がわかるようになります.
ノウサギの糞2景
『白神どうぶつ讃歌 白神の森で
出あった動物たち』へ転載
『白神どうぶつ讃歌 白神の森で
出あった動物たち』へ転載
写真左 2009年12月13日 ノウサギの糞 白神自然観察園にて.
写真右 2010年9月7日 ノウサギの糞 砂子瀬遺跡にて.
ノウサギの糞もわかりやすいフィールドサインの1つです.糞の大きさは直径1cmほどで匂いはほとんどありません.
二ホンジカの糞?はたまたカモシカの糞?
2010年5月5日 二ホンジカの糞 大川林道にて.
この日昼下がり,大川林道の杉林でまだ新しいと思われる明るい色の糞をみつけました.ん・・?これはシカの糞?カモシカの糞?二ホンジカはシカ科,ニホンカモシカはウシ科で系統的には大きく異なりますが,食性が似ているためか糞は極めて似ていて,ちょい見では区別が難しいところがあります.ただ,両者の排便の仕方には決定的な違いがあり,ニホンカモシカは同じところに何回も糞を重ねる溜糞をし,二ホンジカは溜糞をしないので,排便習性から区別がつきます.一般に500個以上の糞粒であれば,ニホンカモシカで,それ以下の場合は二ホンジカとみなしているようですので,この基準に従えば,上の写真の糞の主は二ホンジカの糞ということになります(ただし,二ホンカモシカの溜糞の最初の段階という判断もありそうです).最近は,糞のDNA分析から確実に判定できるようになったと聞きました.